※ノンフィクションでお送りします
昼休みになると、僕は外に出た。
午後の仕事の前には散歩が一番。特に、ここ最近は涼しい日が続いていた。外も幾分か歩きやすい陽気だろう……と思っていたのが、つい1時間半前の事。
空調が利いている会社から一歩外に出ると、強い日差しが襲ってくる。
そもそも、僕が仕事をしている場所はマシンルーム。社内でも空調の設定温度が特にキツくなっている場所だった。気温の差が激しく、これにはなかなか順応できない。外に出てから十歩も歩くと、僕はだれた。
それならば、よく考えなくても、会社に戻れば良いだけの話ではある。
しかし、この昼の散歩は案外バカに出来ない。年齢的にももう若者とは言い難い僕にとって、お昼の散歩は無駄なカロリーを燃焼させる為の数少ない火室装置的な役割であり、午後の仕事に備えて気分を入れ替える為の潤滑油でもあった。
僕の散歩コースは決まっている。
大崎駅のすぐ横に僕の勤めている会社がある。そこから駅を離れる方向へずっと歩いていくと、戸○銀座という商店街があった。なぜ商店街などは、よく「銀座」と呼ばれる事が多いのか、日頃から疑問に思ってはいたが、未だにその疑問は解決していない。一つ言えるのは、ここには中原麻衣も来た事があるという事だった。
ちなみにこの○越銀座は、数ある「銀座」と名の付く商店街の中で最も早く「銀座」と付けた商店街らしく、商店街の長さは1.6kmと、日本でも1・2位を争う長さらしい。
それはさておき、戸○銀座に入ると、何やらお祭りなどで聞こえてきそうな太鼓と笛の音が耳に入ってくる。
「ほう」
思わずそう言ってしまう。
関東へ住むようになってから僕が参加するお祭りと言ったら、専ら夏と冬にある某お祭りか、もしくは毎年冬にやるジャンプフェスタぐらいなものだ。それらは太鼓の音や神輿などとは程遠い世界。
地元に居た頃は秋祭りなどが盛大に開催され、よく僕も神輿を担いで神社まで行ったものだ。
それを思い出し、感慨に耽った。
ふと、横を見ると、小さいながらも神輿を発見した。こんな道横に出してあるという事は、近いうち○越銀座のお祭りが行われるのだろう。それは容易く察しがつく。
商店街の中を少し進んだ。
看板が立っている。
戸○八幡神社例大祭 9月11日、12日開催!
例大祭と聞くとどうしても違うお祭りを思い浮かべてしまう体になってしまった環境が憎い。そしてその看板は、ドラクエ4の第2章で武術大会出場者募集をイメージさせる感じだった。
とにかく、お祭りがあるという事が判明して多少の満足感を得た僕は、散歩がてら行こうと思っていた○越銀座の本屋さんへ向った。
本屋では、もちろん今日発売の声○ラを買おうと思っていた。アニメのチェックもできる。一石二鳥。
本屋さんへ到着すると声グ○は置いてなかった。よくみると、前月発売の○グラはある。田舎の雰囲気を漂わせる商店街なのは良いが、蚊取り線香だけにして欲しい。
「すいません。今日発売の声○ラはないですか?」
「あら。あら。今日のはないわねぇ」
と、店のおばちゃん。
発売日にないとか、いつから置くんだろう。
「アニメー○ュならあるんだけどねぇ」
しかもアニ○ージュも先月のだった。
類似(厳密には全く違うんだが)雑誌を紹介され、諦めた僕は店をあとにし、○越銀座をとぼとぼと歩く。
そんな気分の萎えた僕とは違い、戸○銀座はお祭りを目の前に控え活気付いていた。
集会所のような所では、商店街のおじちゃん達が昼からビールを飲み楽しそうに語り合っている。また、その隣の家の電柱に飾りを付けるおじさんもいた。賑やかな商店街だ。こういう雰囲気は嫌いではない。
と、そのとき、いつもは閉まっているお店が開いている事に気が付いた。
そのお店は○越銀座でも唯一、遊戯王カードを扱っているお店だった。価格変動の波に乗るのが少し遅いので、たまに掘り出し物があったりする。
経営している人は別にいるとは思うが、とりあえず店番をしているのはおじいちゃんとおばあちゃんだった。
ガラガラと店の入り口を開け、中にはいる。ちょっとした昔の駄菓子屋のような感じだ。店の真ん中に大きくスペースがとられ、そこにテーブルが一つだけ置いてあった。デュエルをする場所だ。
今日は珍しく、そこに中学生が二人。デュエルを楽しんでいたようだったが、僕が店に入ると、そそくさとカードを片付けてしまった。
「あーあ。なんで俺ってカードいっぱい持ってるのに勝てないんだろう……」
そんな事をつぶやいている。
所持カードの枚数で勝てるとでも思っているのか? と言ってやりたいが、僕は大人。彼等は子供。言っても仕方ない。
その言葉を最後に、少年達は店を出ていった。
そこでようやく僕が店にいる事に気が付いた店番のおじいちゃん。「いらっしゃい」と、少し震えた声をかけてくる。
制限改訂発表からもう3週間ぐらい経っているので、掘り出し物がある事には期待していなかった。
が、一応店に並んでいるカードを見て回る。案の定、めぼしいカードは置いてなかった。一枚だけ「炎帝近衛兵」が100円だったので、未来あるカードとして無駄に買っておいた。こいつはきっとくる。そんな儚い希望を込めて。
おじいちゃんがレジを打っている間に、少しお話してみようと思った。
「明日からお祭りなんですね」
「は?」
どうやら耳が遠いらしい。仕方ない。もしかしたら「何このDQN」みたいな感じだったのかも知れない。
途中からいたおばあちゃんが僕の質問に答えてくれた。
「祭りはあしたからだねぇ」
「そうですか。お神輿はいつ頃ならみれるんですかね?」
会話が成立したので更に質問してみた。
「昼過ぎごろかねぇ。三時とかだねぇ。夜もやってるよ」
「じゃあ、何回かは見る機会があるんですね」
「そうだねぇ。今年は三年に一度の本神輿って言ってね、大きな神輿がくるんだわ」
「それは見ごたえがありそうですね」
商売をしているおばあちゃんとの会話を楽しむ。気分はクラフト・ロレンスだった。
買い物もすませた僕は店を出た。さっきの少年達はどっちへ向ったのか……。そんな事を思わせるぐらい、人通りは少なくなっていた。昼休みが終わる時間だからかな。
それは人事ではなかったと、すぐに気が付く。
どうやら走らないと会社まで間に合いそうに無い時間になっていた。
僕は走った。
午後の仕事に間に合わないとマズイ。その一心で。
とにかく走った。
走ってる最中、炎帝近衛兵を落とした事に気付かないほど夢中に。
(ご愛読ありがとうございました! ふにふにさんの次回作にご期待ください!)
[0回]
PR